デスクワーク続きで腰痛に悩む方のセルフケア方法と受診の目安
デスクワーク続きで腰痛に悩む方のセルフケア方法と受診の目安
執筆者 作業療法士 丹野愛
監修者 整形外科医 森裕展
デスクワーク中心の仕事で、腰痛に悩んでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
腰痛は重いものを持つ仕事だけでなく、デスクワークでも起こります。デスクワークで起こる腰痛の原因や、腰痛のセルフケアのポイントについて解説します。
さらに、医療機関を受診するタイミングの目安についても説明していますので、適切なタイミングで受診できるように備えておきましょう。
デスクワークによる腰痛の原因
デスクワークで起こる腰痛の原因として、ぎっくり腰などの急に起こった腰痛、病気による腰痛、長時間座ることによる腰への負担などが挙げられます。
急に起こった腰痛
ぎっくり腰は、急に起こった強い腰の痛みです。椎間板や脊柱を支える筋肉や靱帯などに過度の負荷がかかって損傷した場合に起こります。腰椎捻挫(ようついねんざ)や腰部挫傷(ようぶざしょう)などの診断がつく場合が多く、いわゆる腰部の筋肉や靭帯などの組織のケガです。はっきりと原因のわからない非特異的腰痛(ひとくいてきようつう)*に分類されます。
急性腰痛は多くの場合、自然に改善する傾向がみられます。1)しかし、非特異的腰痛では、3ヶ月以内に33%の患者の腰痛改善がみられた一方、1年後には65%の患者が依然として腰痛を抱えているとの報告がありました。2)
なかには、自然に改善することなく、慢性的な腰痛としてデスクワーク時の悩みの種になるケースもあるということです。
*非特異的腰痛:原因がはっきりとわからない腰痛。詳しい説明はこちらの記事をご確認ください。
病気による腰痛
腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、圧迫骨折、感染性脊椎炎、癌の脊椎転移、大動脈瘤・尿路結石などの内臓疾患などでも腰痛が起こります。
腰椎椎間板ヘルニアの検査方法や腰部脊柱管狭窄症でみられる特徴はこちらの記事で詳しく解説しています。すぐに受診が必要な腰痛のポイントも掲載していますので、ほかの身体の症状が伴うひどい腰痛時は、様子をみずに受診を検討してください。
長時間の静的作業姿勢
デスクワークのように長時間座っている姿勢(拘束姿勢)をとり続けることも腰痛の原因のひとつです。3)
同じ姿勢をとり続けることで、腰部の筋肉が緊張したり、血行不良が起こったり、椎間板や関節に過剰な負荷がかかったりして腰痛につながります。また、姿勢の崩れがある場合も腰部に負担をかけ、腰痛を引き起こす原因になります。
デスクワークによる腰痛のセルフケア方法
セルフケア方法として、姿勢のチェック、ストレッチ・筋トレなどのエクササイズ、座りっぱなしを避けるためのリフレッシュ方法をお伝えします。
デスクワーク時の姿勢のチェック
長時間座り続けることも腰痛の原因になりますが、さらに、その座る姿勢が腰に負担のかかりやすい姿勢であっても腰痛が起こります。
次のような腰部に負担がかかる姿勢になっていないか、チェックしてみましょう。(図1参照)
・腰が反り過ぎている(腰椎前弯が強い)
・骨盤が後ろに倒れ、猫背になっている
・左右に姿勢が偏っている
図1 デスクワーク時の姿勢チェック
デスクワーク時は、腰部に負担のかかりにくい姿勢を意識しましょう。
・骨盤が起きて、背骨がS字に近い自然な形状を保っている
・足の裏が床について膝は90度になっている
・パソコンのディスプレイは目から40㎝以上の距離を保ち、目線は下を向いている
4),5)
腰に負担をかけにくいデスクワークの姿勢はこちらの記事にて画像付きで説明しています。デスクワーク時の適切な姿勢のチェックにご活用ください。
ストレッチ・筋トレなどのエクササイズ
デスクワーク時の適切な座位姿勢をとるために必要な筋肉の柔軟性と筋力がなければ、腰部に負担がかかり、腰痛につながります。
次の部位の筋肉の柔軟性を保ちましょう。
・腰背部(腰と背中)
・臀部・大腿後面(お尻と太ももの裏側)
・肩甲骨周囲
・腹部
身体のどの部位が硬いかチェックする方法と、それぞれの部位のストレッチ方法はこちらの記事で解説しています。お腹の筋肉のストレッチは、「デスクワークのための姿勢改善ストレッチ」の動画で説明していますので、ぜひチェックしてみてください。
骨盤を起こした座位姿勢は、体幹筋やお尻の筋肉、股関節周囲の筋肉などの骨盤周囲の筋肉がしっかり働かなければ保持し続けられません。体幹と下半身の筋肉を中心に鍛えましょう。
・腹筋
・背筋
・臀筋
・大腿の筋肉
それぞれの筋肉の筋トレ方法はこちらの記事で解説しています。「デスクワーク中に座りながらできる運動」では、デスクで簡単にできる骨盤周囲の筋肉を使う運動を紹介しています。デスクワークの合間にも取り組みやすい運動ですので、ぜひ参考にしてみてください。
デスクワークの合間にリフレッシュ
同じ姿勢をとり続けることを避けるために、デスクワーク中には定期的に動く時間をつくることがおすすめです。立ち上がる、姿勢を変えるだけでも血流が促され、身体も気持ちもリフレッシュできるでしょう。
1時間に1回を目安に、次のようなリフレッシュ方法を取り入れてみませんか。
・立ち上がる
・ストレッチをする
・腰をゆっくり回すなど、腰部に動きを加える
・トイレに行くなどして歩く
こちらの記事では、職場全体で取り組めるリフレッシュ方法も紹介しています。
セルフケアを通して身体の状態を知る
まずは、自分の身体の柔軟性や筋力、普段の姿勢を知ることからです。(図2参照)
「猫背になりやすい」「片側に重心をかけてしまいがち」など、普段取ってしまいがちな姿勢や、身体の硬い部位、筋力が弱い部位を把握しましょう。
そして、日常生活の中で意識して姿勢を改善する、ストレッチや筋トレを毎日取り入れるなどのセルフケアに取り組みましょう。
図2 まずは自分の身体を知ることから
いつもと違う痛みや日常生活に支障をきたすなら受診を
ストレッチや筋トレなどの軽い運動を行っても、リラックスやリフレッシュできず、次のような状態が続く場合は医療機関を受診しましょう。
・腰に違和感がある
・いつもとは違う痛みがある
・痛みが悪化する
・仕事や家事に影響するほどの腰痛がある
・腰痛のために活動量が低下している
自分に合ったセルフケア方法で腰痛対策を
デスクワークによる慢性的な腰痛の多くは、長時間同じ姿勢をとり続けることや姿勢の悪さによって腰部に負担がかかるために起こります。
適切な姿勢をとり、ストレッチや筋トレでセルフケアを行うことで腰痛予防や軽減が期待できます。セルフケアを行っても腰痛がひどく、日常生活に支障をきたす場合は、早めに整形外科などの医療機関を受診しましょう。
腰痛は身体に関する要因だけでなく、心理的要因や職場の環境などの社会的要因も複雑に絡み合って起こります。自律神経を整える運動や慢性的な痛みがある場合の運動も参考に、自分に合ったセルフケア方法を見つけましょう。
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参考
1)da C Menezes Costa L, et al. The prognosis of acute and persistent low-back pain: a 697 meta-analysis. CMAJ 2012;184(11):613.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22586331/
2)Itz CJ, et al. Clinical course of non-specific low back pain: a systematic review of 699 prospective cohort studies set in primary care. Eur J Pain 2013;17(1):5.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22641374/
3)厚生労働省 社会福祉施設における安全衛生対策マニュアル~腰痛対策とKY活動~
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/0911-1.html
4)厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署|情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/content/000580827.pdf
5)松平浩監修 産業保健スタッフのための新腰痛対策マニュアルVer.10 令和3年度⦆厚生労働科学研究費補助金/慢性の痛み政策研究事業慢性の痛み患者への就労支援/仕事と治療の両立支援および労働生産性の向上に寄与するマニュアルの開発と普及・啓発(研究代表者:松平 浩)
https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/202115001A%20sonota1.pdf