自律神経の働きをサポートするウォーキング方法
自律神経の働きをサポートするウォーキング方法
執筆者 作業療法士 丹野愛
監修者 整形外科医 森裕展
ウォーキングは自律神経を整える有酸素運動であり、リズミカルな運動です。自律神経は、心拍数や呼吸、血圧をコントロールし、心身の調和された状態を保つために重要な役割を果たしています。適度な運動強度を保ちながら行うウォーキングは、交感神経と副交感神経のバランスを整えやすくなります。
この記事では、研究結果にもとづいたウォーキング中の適した心拍数やウォーキング時に取り入れたいポイントを解説します。
自律神経を整えるウォーキングに適した心拍数
適切なウォーキング方法として「適度な運動強度」や「軽く息が弾む程度」と示されていることも多いですが、「実際にどのくらいのペースで歩けばよいの?」と疑問に感じたことはありませんか?
自律神経を整えるウォーキングの歩行ペースについて、研究結果をもとに具体的な数値を出しながらご説明します。
自律神経と運動時心拍数の関係
ウォーキング中には、一時的に交感神経の働きが増加し、心拍数や血圧が上昇する一方で、副交感神経の働きは抑制されます。運動後は交感神経の働きが落ち着き、副交感神経が活性化して元の状態に戻ります。
しかし、運動後の副交感神経の回復が遅れると、心臓への負担が増し、心疾患や不整脈のリスクが高くなり危険です。適切に副交感神経の回復を促すことで、自律神経のバランスが整いやすくなるでしょう。
心拍数が自律神経に与える影響の研究によると、心拍数100~120bpmでは運動後の副交感神経の回復が早く、心拍数140~160bpmでは回復が遅いとされています。
心拍数 |
自律神経 |
100bpmあるいは120 bpm |
交感神経・副交感神経ともに運動前の値まで比較的早く回復する。特に心拍数100 bpmの場合に、運動後の副交感神経の働きが回復しやすい。1) |
140 bpmおよび160 bpm |
運動後も交感神経の働きが高まり、副交感神経の働きが低下する状態が続く。1) |
以上より、心拍数100~120bpmを維持したウォーキングの歩行ペースが自律神経の働きをサポートするといえるでしょう。
心拍数で歩くペースを調整
ウォーキング中の心拍数が高くなりすぎないように歩くペースを調整するには、ウェアラブル端末が役立ちます。心拍数が表示されるスマートウォッチやスマートバンドは、腕に装着できるので運動時も邪魔になりにくく使いやすいでしょう。
ただし、表示される心拍数は実際の心拍数とずれが生じる場合もあります。また持病や体調によって心拍数の変動は個人差があります。息苦しさや今までにないしんどさを感じた場合はウォーキングを中止し、回復しなかったり、症状が続いたりする場合は医師に相談しましょう。
自律神経を整えるウォーキング3つの条件
自律神経を整えるウォーキングに取り入れたい「音楽」「自然環境」「ジャージウェア」の3つを研究結果とともにご紹介します。
1.リラックスできる音楽を聴きながら歩く
気分を落ち着かせるような音楽は、運動中に副交感神経の活動が低下するのをやわらげ、運動後の副交感神経の回復を促す効果があることが報告されています。2)
研究では、一般的に気分が落ち着くとされる音楽ではなく、被験者自身がそれぞれ「気分が落ち着く音楽」を選んで行われています。音楽の選定は「自分がリラックスできるかどうか」を基準にするとよいでしょう。
2.自然の中を歩く
森林でのウォーキングが自律神経に与える影響の研究では、半数以上の参加者が副交感神経の働きが増加し、交感神経の働きが抑えられたと報告されています。町の中のウォーキングと比べて森林ではより副交感神経が活性化しやすい傾向が見られています。3)
ウォーキングコースに自然が多いコースを選ぶとよりバランスのとれた自律神経活動が得られやすくなるでしょう。
3.ジャージを着て歩く
運動時の服装と自律神経の関連の研究によると、ジーンズやタイトなウェア、ゆとりのありすぎるウェアよりもジャージを着用した場合に、交感神経の働きが抑えられ、副交感神経の働きが増加したと報告されています。4)ただし、運動後はゆとりのある服を着用することで副交感神経の働きが高まったとあります。4)
自律神経の働きをよりよくサポートするためには、ウォーキング中にはジャージを着用し、ウォーキング後はゆとりのある服に着替えると副交感神経の働きが高まりやすくなり、リラックス効果が得られやすいでしょう。
大事なのはポジティブ感情!楽しくウォーキングを
ポジティブな感情を自ら持つことは心身を調和の取れた状態にして、副交感神経の働きを増加させるという報告があります。5)
何よりもウォーキングを「楽しむ」ことがいちばんです。
ほかにも次のような感情を持つと、自律神経の働きをバランスよい状態にしてくれるかもしれません。
・自分で今日のゴール(距離や時間など)を決めて達成感を味わう
・リフレッシュ感、すがすがしさを味わう
・今日も歩けることに感謝する
・周りの景色などに興味を持つ
・リラックスした気持ちで歩く
自分の「好き」を取り入れたポジティブウォーキングのすすめ
心拍数100~120 bpmのウォーキングは、自律神経の活動をサポートします。スマートウォッチやスマートバンドなどで心拍数をモニタリングしながら歩くとペースを保ちやすくなります。
また、「お気に入りのリラックス音楽」「ワクワクするようなウォーキングコース」「モチベーションが上がるお気に入りのジャージウェア」など、自分の「好き」を取り入れるのがおすすめです。
ウォーキングに「楽しい」「気持ちよい」などのポジティブな感情を持って楽しむことで、心身の調和が促され、自律神経のバランスのよい働きをサポートしてくれるでしょう。
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参考
1)林 直亨, 中村 好男, 村岡 功 一過性の運動中および運動後の自律神経系活動に及ぼす運動強度の影響 体力科学 44 (2)1995. 279-286
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspfsm1949/44/2/44_2_279/_pdf
2)Tiantian Jia ,Yoshiko Ogawa et al. Music Attenuated a Decrease in Parasympathetic Nervous System Activity after Exercise PLoS One 2016.11(2)
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0148648
3)Hiromitsu Kobayashi et al. Forest Walking Affects Autonomic Nervous Activity: A Population-Based Study Front Public Health. 2018 6:278.
https://www.frontiersin.org/journals/public-health/articles/10.3389/fpubh.2018.00278/full
4)小林朋子,斎藤嘉代 ウォーキング・ジョギング時の自律神経反応に及ぼす着用ウェアの影響 デサントスポーツ科学 第32巻
https://www.shinshu-u.ac.jp/faculty/textiles/db/seeds/descente32_15_koshiba.pdf
5)Authored by Rollin McCraty, Ph.D.Director of Research, HeartMath Research Center SCIENCE OF THE HEART Exploring the Role of the Heart in Human Performance
Volume 2
https://www.researchgate.net/publication/293944391_Science_of_the_Heart_Volume_2_Exploring_the_Role_of_the_Heart_in_Human_Performance_An_Overview_of_Research_Conducted_by_the_HeartMath_Institute