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痛みのサイクルを断ち切る!慢性疼痛の運動療法ガイド

睡眠・ストレス・鬱病

痛みのサイクルを断ち切る!慢性疼痛の運動療法ガイド

運動 ガイド

執筆者 作業療法士 丹野愛

監修者 整形外科医 森裕展

 

慢性的な痛みが続く慢性疼痛は、身体的、精神的、社会的にも支障をきたします。在宅で療養されている方の中にも慢性疼痛を抱えている方を多くみてまいりました。痛みを軽減する治療法はいくつかありますが、今回取り上げるのは、ガイドラインでも推奨されている「運動療法」です。
慢性疼痛と運動療法について、先行研究の報告や作業療法士としての臨床経験、視点を交えながら、運動療法が効果的な理由と、運動療法を行う上で大切なことをわかりやすくお伝えしていきます。

 

2.5人に1人が抱える慢性疼痛には運動療法が効果的?

腰痛

日本人成人を対象にした報告によると、3カ月以上続く腰痛や背中の痛み、膝痛、肩こり、首のこりなどの慢性疼痛に悩まされている人は約2.5人に1人(39.3%)という結果が出ています。1)

腰痛が治らない

慢性疼痛は、痛みが続くことによる精神的ストレスも大きく、うつ傾向や閉じこもり傾向になる人も少なくありません。活動量や運動量が低下して、筋力や柔軟性、体力、持久力などの身体の機能が衰えると、ますます動きにくくなります。さらには、身体の機能が低下した状態で動くと、身体にかかる負担が大きくなり、痛みも増しやすくなります。

慢性疼痛があると「動くと痛みが出る」という認知が生まれ、“動くこと”への不安や恐怖心も強くなります。運動量・活動量が低下することで、痛みが増す悪循環に陥るのです。さらには、運動量が低下して血行障害から酸素不足となり、痛み物質が産生される場合もあります。

痛みは活動性の低下から起こる身体機能の低下や血行不良によるものだけではありません。

痛みや生活が制限されることで、気分の落ち込みやイライラ感、焦燥感などを生じやすくなります。交感神経の働きが高まり、筋肉が緊張することで、痛みに対してさらに敏感になってしまう方も多くみてきました。

治らない痛み(慢性疼痛)とは?

慢性疼痛が続くと、仕事や家事が行いにくくなり、休日も趣味を楽しんだり、好きなことに参加したりする機会が減り、ストレスもかかって自律神経のバランスの乱れにもつながります。

自律神経のバランス

慢性疼痛の悪循環から抜け出すための方法のひとつとして、ガイドラインにおいても有効とされているのが運動療法です。2)

運動療法が慢性疼痛の痛みを緩和する理由

慢性疼痛 運動療法

ウォーキングやジョギング、水泳などの有酸素運動や筋力トレーニング、ストレッチといった一般的な運動療法のほか、モーターコントロールエクササイズやヨガ、ピラティス、太極拳、気功、ラジオ体操なども痛みの軽減に効果的な運動として挙げられています。2)

運動にはさまざまな効果がありますが、運動によって体を動かすことができれば「痛みがあっても動ける」とポジティブな認知の変化が生じます。「痛みがあるから動けない」という今までの考え方に基づいた悪循環を断ち切り「痛みをコントロールできた」という成功体験、自己効力感の向上につながるのです。

また、運動をすると、脳からは鎮痛剤と同じような作用を持つエンドルフィンが分泌されます。筋肉から分泌されるマイオカインは、最近の研究によって痛みの緩和に作用することもわかってきています。3)

ほかにも、運動は爽快感や達成感をもたらし、活動的に過ごすための基礎となる身体機能が向上します。「運動をするために外出する」「グループで運動に取り組む」などの活動を通して、社会的な参加の増加も期待できます。

慢性疼痛を緩和するおすすめの運動療法

おすすめ 運動療法

慢性疼痛に悩む方は、どういった運動から始めればよいのでしょうか。
慢性疼痛の運動療法として、手軽に始められる有酸素運動はウォーキングです。ただし、痛みを我慢して無理やり運動すると、後から痛みが強くなったり、痛くなるから動きたくないというサイクルがさらに強固になったりする場合もあります。
そこで、慢性疼痛の運動療法を行う際のポイントを作業療法士目線でお伝えしていきます。

慢性疼痛の運動療法のポイント

・達成できる目標を
普段、歩く習慣のない人がいきなり1日10,000歩や30分間のウォーキングなどの高い目標を立てても達成することはできません。目標を達成する成功体験が慢性疼痛の悪循環を断ち切る運動の継続につながりますので、少し行えば達成できる目標を設定しましょう。

1日4,000歩で不安や気持ちの落ち込みなどを予防する脳内物質のセロトニンが分泌されると言われています。4)まずは1日プラス10分のウォーキングから始めてみましょう。

・ウォーキングが楽しくなるようなコース選びを
「今日も歩かなければならない」と運動が苦しいものになると、モチベーションが下がり、運動を続けることが難しくなります。「あの公園の花は咲いたかな」「あそこのスーパーに売っている商品を食べたいな」など、ウォーキングそのものが楽しみの活動となるようなコースを選んでみましょう。楽しい、ワクワクする感情は痛みを感じにくくしてくれます。

慢性疼痛の運動療法前の準備

普段から身体をあまり動かしていないという方は、縮んで硬くなってしまった筋肉をストレッチで伸ばす、深呼吸でリラックスするなどから段階的に取り組んでみましょう。

・運動不足の人はストレッチから
ウォーキングを行う上で柔軟性を確保しておきたい股関節のストレッチを紹介します。特に、大きな筋肉である太ももの裏の筋肉(ハムストリングス)、お尻の筋肉(大殿筋)、ふくらはぎ(腓腹筋)のストレッチを行いましょう。

ハムストリングスのストレッチ、大殿筋のストレッチはこちらから
今日から始める!初心者のための股関節ストレッチ

腓腹筋のストレッチはこちらから
家でできる膝の痛み軽減ストレッチ紹介

・深呼吸でリラックス
痛みが続いて心も身体も緊張状態が続いていると交感神経が活発な状態となり、脳が痛みを感じやすくなります。リラックス効果のある深呼吸で緊張を和らげましょう。
リラクゼーション効果が得られる深呼吸

慢性疼痛の運動療法は個人に合った運動を


慢性疼痛にはウォーキング、ストレッチなどの運動療法が有効ですが、自己流でのストレッチや身体の状態に合わない運動の選択は痛みを強める可能性もあります。また、運動を行う際に痛みの出にくい姿勢のとり方や動作方法を学習することで、より安全性を保って、効率よく運動療法を進めやすくなります。

一人で運動やストレッチを進めるのに不安がある場合や自分の身体や痛みの状態に合った運動方法のアドバイスを受けたい場合は、慢性疼痛についてよく知る医師・理学療法士・作業療法士が在籍する守口市の森整形外科リハビリクリニックにご相談ください。

治らない痛み(慢性疼痛)専門外来

執筆者 作業療法士 丹野愛

作業療法士 丹野 愛

監修者 整形外科医 森裕展

院長 森裕展

森整形外科リハビリクリニック森整形外科リハビリクリニック

参照文献
1) Shinsuke Inoue et al. Chronic Pain in the Japanese Community—Prevalence,
Characteristics and Impact on Quality of Lif.PLOS ONE 2015
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0129262
2) 慢性疼痛治療ガイドライン 真興交易(株)医書出版部
https://www.mhlw.go.jp/content/000350363.pdf
3) マイオカイン、特にイリシンに注目した慢性疼痛の制御を目指して
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-21K08979/
4)Maciej Banach etal.The association between daily step count and all-cause and cardiovascular mortality: a meta-analysis European Journal of Preventive Cardiology, Vol30(8) 1975–1985.2023