デスクワークによる腰痛対策。机や椅子の設定とリフレッシュ方法
デスクワークによる腰痛対策。机や椅子の設定とリフレッシュ方法
執筆者 作業療法士 丹野愛
監修者 整形外科医師 森裕展
2022年(令和4年)の国民生活基礎調査によると、病気やけがで自覚症状のある人の中で、男女ともに最も多いのが腰痛です。1)腰痛に悩む人は非常に多く、日常生活や仕事のパフォーマンスにも大きな影響を与えます。
本記事では、デスクワークにおける腰痛対策として、机や椅子の適切な設定方法や、簡単にできる「これだけ体操」、そして会社や自宅で取り入れられるリフレッシュ方法を詳しく紹介します。腰痛対策を取り入れて、快適なワークライフを手に入れませんか。
デスクワークの腰痛対策①:快適なデスクワーク環境の整え方
デスクワークで腰痛が起こる要因には「長時間同じ姿勢で仕事をする」姿勢が関係しています。デスクワーク時は立位姿勢に比べて、姿勢や体重によって腰椎に大きな力がかかりやすい座位姿勢です。
腰痛予防には、腰痛になりにくい姿勢を保持できる環境設定が大切です。腰に負担をかけにくい机や椅子の設定について解説します。
腰に負担をかけにくい机と椅子の設定
腰痛になりにくい机の広さや高さ、椅子の設定を図で表しています。(図1参照)身体の過剰な緊張が高まらない姿勢を維持できるデスクワーク環境を整えましょう。
図1 腰に負担をかけにくいデスクワークの姿勢
出典:厚生労働省|職場における腰痛予防対策指針2)、厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署|情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン3)、松平浩監修 産業保健スタッフのための新腰痛対策マニュアルVer.10 令和3年度⦆厚生労働科学研究費補助金/慢性の痛み政策研究事業4)より筆者作成
また、下記の表のような姿勢をとることができる調整可能な机や椅子が適しています。(表1参照)
机・椅子の設定項目 |
具体的な設定方法 |
机の広さ |
・パソコンや書類を置ける広さ ・目から40㎝以上離れた距離にディスプレイを設置できる奥行き |
机の高さ・パソコンの設定 |
・肘は110度くらいになる高さ ・ディスプレイの上端は目の高さ以下 ・キーボード操作時に首や肩が緊張しない高さ |
椅子の設定 |
・椅子に深く腰をかけ、背もたれに背中をつけた状態で、足裏全体が床につく(膝は90度程度) ※背もたれを活用する(上半身の体重の6割をカットしてくれる) ※必要に応じて滑りにくい足台を使用する ※足元に荷物は置かず、適切な姿勢が取れるように十分なスペースを空けておく |
椅子の座面 |
・硬すぎず柔らかすぎず、体圧が分散されるもの |
表1 腰痛になりにくい机の広さや高さ、椅子の設定
出典:厚生労働省|職場における腰痛予防対策指針2)、厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署|情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン3)、松平浩監修 産業保健スタッフのための新腰痛対策マニュアルVer.10 令和3年度⦆厚生労働科学研究費補助金/慢性の痛み政策研究事業4)より筆者作成
腰痛を予防するサポートグッズ
骨盤が後ろに倒れると猫背になります。折りたたんだタオルをお尻の後ろに入れて骨盤の前傾をサポートすると骨盤を中間位に保ちやすくなるでしょう。4)また、背中と背もたれの間に折りたたんだタオルを挟むと腰痛の自然な前弯が促されます。4)
背中に負担がかかりにくいデスクワーク姿勢の詳細や、デスクワーク時に背中を守るグッズと正しい使い方はこちらの記事でも詳しく解説しています。
デスクワークの腰痛対策②:「これだけ体操」で腰痛のリスクを軽減
デスクワーク続きによる腰痛は、猫背などの不良姿勢により、腰に負担がかかることが要因の一つです。
背骨は複数の骨(椎骨)が連なっており、椎骨の間には髄核というゼリー状のクッションとなる組織が存在しています。健康な状態では髄核は椎骨と椎骨の中心に位置します。しかし、猫背などの偏った姿勢では、椎骨に圧迫されて髄核が外側へと押されてしまっている状態です。
髄核が押されている状態が続くと、腰の違和感や痛みが生じ、さらに、ぎっくり腰や椎間板ヘルニアを発症するリスクも高まりやすくなります。
腰痛対策のための「これだけ体操」
厚生労働省の「産業保健スタッフのための新腰痛対策マニュアル」に掲載されている「これだけ体操」は外側へと押し出された髄核を元の位置へと戻すための体操です。背中の筋肉の血流を促し、疲労を回復する効果もあります。4)「これだけ体操」の方法を紹介します。
図2 「これだけ体操」の方法
出典:松平浩監修 産業保健スタッフのための新腰痛対策マニュアルVer.10 令和3年度⦆厚生労働科学研究費補助金/慢性の痛み政策研究事業
【方法】
1.両足を肩幅よりやや広めに開いて立ちます。
2.両手のひらを、指先を下に向けた状態でお尻に当てます。両手の小指をできるだけ近づけると胸を開きやすくなります。
※両手をお尻に置くのが難しい場合は腰に手を当てます。
3.息を吐きながら、両肘を近づけ、骨盤を前へ押し込むようにして上半身を反らしていきます。気持ちよいと感じるところまで骨盤を前へ押し込んでいきます。
※膝は伸ばしたまま重心はつま先に置き、踵が浮くか浮かないかくらいの状態にします。
※胸を開いていくように動かします。
※軽く顎を引き、目線は斜め上30度の位置です。
4.骨盤を前へ押し込んだ状態で、息を吐き続けながら3秒間キープします。
5.ゆっくりと元に戻していきます。
6.1~2回行います。
※体操後に痛みや違和感が10秒以上続く場合は無理をしません。
※お尻から太ももにかけて痛む場合は中止し、整形外科を受診して相談しましょう。
「産業保健スタッフのための新腰痛対策マニュアル」では「これだけ体操」の動画も紹介されています。
参照リンク:https://www.youtube.com/watch?v=6HmiClW9-Yg&t=3s
体操に加えてストレスケアで不安を緩和
腰痛は、不良姿勢や動作により、腰まわりに負担が蓄積されて起こるだけでなく、家庭や仕事などの社会生活を送る上でのストレスも関係します。4)
日常生活で受ける心理社会的なストレスは、痛みを和らげる脳の機能に不具合を起こし、痛みの感受性が増すことが示唆されています。5),6)
マインドフルネスにより、今の自分の状態に目を向け、ストレスや痛みへの不安などにとらわれることなく過ごすことも大切です。ただ穏やかに「今」に集中する時間をつくるのもよいでしょう。4)
心と痛みの関係はこちらの記事で詳しく解説しています。
デスクワークの腰痛対策③:リフレッシュタイムを取り入れる
同じ姿勢をとり続けると腰への負担が大きくなり、血流も悪くなります。デスクワーク中心の企業では、会議は立って行う、昇降式デスクを導入して立って作業するなどを取り入れている例もあります。
企業の取り組み例や在宅ワーク時に心がけたい工夫を取り入れて、座りっぱなしを予防しましょう。
定期的に動く習慣をつくる
座りっぱなしを予防するために企業が行っている取り組み例を紹介します。
- ・1時間ごとに音楽がかかり、40秒間デスク周りをスタッフみんなでぐるぐる歩く。歩く向きを変えたり、スピードを変化させたりする。
・毎日3回、1回3分全員でストレッチなどに取り組む
・昇降式デスクを導入して立ってデスクワークをする
・立って会議する
・朝や昼休みに体操やストレッチをする
・バランスボールでデスクワーク
7)
上記を参考に「タイマーを活用して1時間に1回ストレッチをする」など、個人でもアレンジして定期的に体を動かす習慣を取り入れられそうですね。
在宅ワーク時は1日1回以上の外出を心がける
在宅ワークが続くと、動く機会が減ってしまいます。通勤の必要がなく、買い物やミーティングも今やオンラインで完結する時代です。外出しなくても生活を送れてしまいますが、家の中だけで過ごしていると運動量が減り、血流・筋力・柔軟性が低下して腰痛が起こりやすくなります。また、一人で過ごす時間が増えると、気分も沈みがちになるでしょう。8)
腰痛を予防し、気分転換を図るためにも、在宅ワーク時には1日1回は外出し、リフレッシュすることを心がけましょう。
腰痛予防対策の体操や運動は正しいフォームで行うことが重要
デスクワークによる腰痛は、適切な対策を取ることで予防・軽減しましょう。「適切な姿勢をとる」「体操を行う」「リフレッシュタイムを設ける」だけでなく、体操や運動の際にも正しいフォームを意識することが重要です。8)
もし、体操をしているのに「痛みが増えた」「痛みが強くなった」「痛みが続いている」と感じた場合は、医療機関を受診して、腰の状態と適切なケアが行えているかを相談しましょう。
自分に合ったケア方法のアドバイスを受けられるシンセルフケア・リハビリ:https://www.moriseikei.or.jp/self/
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参考
1)厚生労働省|2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況 図17 性別にみた有訴者率の上位5症状(複数回答)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa22/dl/14.pdf
2)厚生労働省|職場における腰痛予防対策指針
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000034et4-att/2r98520000034pjn_1.pdf
3)厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署|情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/content/000580827.pdf
4)松平浩監修 産業保健スタッフのための新腰痛対策マニュアルVer.10 令和3年度⦆厚生労働科学研究費補助金/慢性の痛み政策研究事業慢性の痛み患者への就労支援/仕事と治療の両立支援および労働生産性の向上に寄与するマニュアルの開発と普及・啓発(研究代表者:松平 浩)
https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/202115001A%20sonota1.pdf
5)Patrick B Wood Role of central dopamine in pain and analgesia Expert Rev Neurother
2008 8(5)p.781-797
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18457535/
6)Ilkka K Martikainen et al Chronic Back Pain Is Associated with Alterations in Dopamine Neurotransmission in the Ventral Striatum J Neurosci 2015 35(27)p.9957-9965
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26156996/
7)スポーツ庁Web広報マガジンDEPORTARE|日本人の座位時間は世界最長「7」時間!座りすぎが健康リスクを高める あなたは大丈夫?その対策とは・・・
https://sports.go.jp/special/value-sports/7.html
8)スポーツ庁Web広報マガジンDEPORTARE|テレワークで肩こり・腰痛が増加 その対策教えます